120日以上の飼育期間で鶏の成長をゆっくりと待つ。幻の地鶏「天草大王」

2023.05.27

  • Bleu-Blanc-Coeur
  • ヘルシーファーミング

日本全国のさまざまな地域で一次産業を営む方々に、環境に寄り添い命をいただく食べもの作りに対する思いやこだわりについてお話を伺い、発信する「Journal」。

第3弾は、熊本県天草市で年間16,000羽の熊本地鶏・天草大王を飼育する「株式会社天草大王公元」さん。

農協などには卸さず、消費者やこだわりを理解してくださる取引先への直売のみという販売方法。生産するのは、復元を遂げた歴史ある熊本の地鶏「天草大王」です。

飼育現場の生き生きした姿とともにその美味しさの感動を食べる人にそのままお届けしたいと語る「公元」の冨山さんにお話をお伺いしました。

塩だけで味わうとき、その本領が発揮される

天草大王は、「塩で焼いただけ」で味わうときに、素材の持つ”旨さ”の本領を発揮します。

ほのかな甘みとコクがありながらもクセや雑味がなく、ジューシーさと弾力が特徴。

硬すぎず柔らかすぎない絶妙な歯ごたえがあります。一度食べたらその味わいが、いつまでも鮮明に記憶に残るほど美味しいと評判です。

天草大王の原種は体が非常に大柄で、背丈が90cm、重さ7㎏にもなる立派な鶏です。

国内最大級であるその大きさから肉量が豊富なだけでなく、鶏ガラなど全ての部位を余すことなく使うことができるため、味や使い勝手などあらゆる面で理想的な食材としてプロの料理人から高い評価と人気を集めています。

噛めば噛むほど出てくる肉汁と旨味

風味豊かな鶏油がとても濃厚かつジューシーで、噛めば噛むほど出てくる肉汁と旨味は絶品。

焼料理、揚げ料理、煮込み料理、鍋料理など料理の幅も広く高級食材として様々なお店で提供されている他、スープや具材に天草大王を使用したラーメンも大変人気を集めています。

明治大正時代、「博多の水炊き」に珍重された幻の地鶏「天草大王」

「地鶏」とは、日本の在来種の血を半分以上継いでいる鶏と定義されています。 日本の在来種は、明治時代までに国内で成立または導入されて定着した38種の鶏と定められています。

熊本の地鶏「天草大王」は、その名の通り国内最大級の大柄な体格で、強靭でしなやかな肉質の力強い美味しさが評判を呼び、九州の中心地博多で「博多の水炊き」用の鶏として地位を築きます。

しかし、天草大王は昭和初期には惜しまれつつ消滅の道へ。平成の時代になって熊本県が天草大王の復元に成功しました。

鶏が生き生きと過ごせる環境。最高の健康が最高の味を生む

鶏を飼育する際の飼育面積は、一般的に「1m²あたり平均15羽前後」の飼育数で、いわば過密状態にあります。

これに対し、地鶏の定義は「1㎡あたり10羽まで」、天草大王は「1m²あたり7羽まで」、公元の天草大王は、「1m²あたり4羽以下まで」というゆったりとした飼育数で育てています。太陽光が差し込み、風が吹き渡る開放鶏舎でのびのびと育ちます。

ストレスが少ないから病気にもなりにくく、目の行き届く羽数のため、鶏の健康管理も万全です。

生産効率を追求したブロイラーの飼育とは異なり、より自然に近い飼育を目指して、鶏がみな生き生きとしているのが公元の実践する「天草大王」の養鶏なのです。

鶏らしくできるだけ自然に。従来の鶏の3倍の期間をかけて愛情たっぷりに育てています

一般的にスーパーで並んでいる「若どり」などと書かれた大量生産を追求してつくられた鶏の総称が、「ブロイラー」です。

「比内地鶏」「名古屋コーチン」や「天草大王」のような地鶏はすべて足しても全体の鶏のわずか1%しか流通していません。

ブロイラーの飼育日数は約49〜60日。可能な限り早く大きくするためにあらゆる方策がとられています。飼育期間が短ければそのぶん、コストが安上がりになるためです。

対して「天草大王」の飼育期間は110日以上150日以内。公元は原則120日以上150日以内。

鶏の健康をいちばんに考え、ゆっくりとその成長を待ちます。そのためコストがかかり価格が上がるため、飼育に取り組む生産者はとても少ないのが現状です。

でも味わいは一級品。ゆっくり育てるぶん、肉質に深い味わいが生まれます。

目配りの効く少羽数飼育に徹し、たとえ5ヶ月の飼育期間でも鶏らしく「健康な鶏がよい肉になる」との信念で天草大王を育てています。

野生の鶏に近づける飼い方。これが理想形

「雑味のない澄んだ旨味が私たちの『天草大王』の真骨頂です」

そう胸を張って語るのは、「公元」営業部長の冨山さん。

そしてさらに冨山さんの日々の取り組みは、餌の配合を追求して公元独自の次の「天草大王」の味を生み出すこと。

「食べた方が食材から滋味を感じ、活力の沸くような命を感じる鶏、味を追求したいと思います」

ここに、料理という世界観にこだわるプロの料理人の人気を集める秘密があるのかもしれません。

公元では、全飼育期間において抗生物質なしの飼料を使用しています。健康で自己免疫を備えた鶏には、そもそも抗生物質はいらないからです。また、遺伝子組み換えでないトウモロコシを中心にした飼料を使用することにこだわっています。

冨山さんの次の理想は、「野生の鶏に近づける」ということだと語ります。

「『野生の鶏は土を喰っている』と聞いて調べると、土にいる放線菌や枯草菌などあらゆる自然界の菌類を取り入れて健康を保っていることが解りました。それらが天然の抗生物質の役割を果たしたり、免疫を形作っているのです」

実際には天草大王の飼育には衛生上、床を土にすることは禁止されています。その代わりに抗生物質などの薬剤を与えているのが一般的な飼育方法なのだそう。

冨山さんは自然の土に変わりつつ、抗生物質を与えないでより健康に育てる方法を研究しています。

「まだ試作段階ではありますが、親しい取引先にまずは味を試験的に試してもらっています。試行錯誤を繰り返すことで『なんだか脂の香りが良い方向に変わったね』という反応もあり、たしかな変化が生まれているようで手ごたえを感じています」

と顔をほころばせて語ってくれました。

鶏は生きもの。健康な鶏こそ美味しさの源

「『健康な鶏が鶏本来の味』という公元の理念のもと、鶏を育てています」。

と力強く語る冨山さんの口調からは、生産者としての鶏へのリスペクトが感じられます。

常に飼料の試行錯誤は続けており、現在は天草の地場産業の”藻"を飼料として使用することに挑戦しているのだとか。

「豚の餌に混ぜたところ、糞が匂わなくなり、豚が元気になって肉質が良くなったという話を聞き、それならばと、鶏の餌に藻を活用させて貰えないかと思い立ったのです」。

この特殊な培養をされた藻はアミノ酸が豊富で、オメガ3脂肪酸、ミネラルもたっぷり。鶏の健康にも良いはずだと、大いに期待しているのだそう。

「餌はどこまでいっても追求の終わらない大切な視点」だと冨山さんは強調します。

オメガ3が豊富な「亜麻種子」を配合した給餌もスタート

冨山さんは、「ヘルシーファーミング」の考えにも強く共鳴しているといいます。

ヘルシーファーミングとは、畜産動物の健康が環境を守り、人の健康にも不可欠だという考えのことで、フランス政府の後押しを受けたフランス・ブルーブランクール協会が提唱しています。

九州では、経産省・九州経済産業局も参加する国際連携プロジェクトとなって活発に活動がなされています。

「天草大王」を肥育する公元もこの活動への参加を決めました。

まだ百羽程度の実験規模ですが、肉の脂肪にオメガ3脂肪酸が増加することが国連でも確かめられた「亜麻」を給餌に加えています。

「より健康に良い鶏をお届けできるように広げていきたい」と冨山さんは胸を膨らませています。

直販にこだわる理由

薬剤・遺伝子組み換え・抗生物質。これらを使わないという飼い方は、餌の生み出される環境や、鶏ふんの堆肥化以降の環境、鶏の健康と向き合いながら、説明の必要な鶏の販売になる為、普通の養鶏とは異なる説明を伴います。

次々と壁や課題があっても頑張れるのは、「美味しかった!」「次も絶対買います!」という、食べた方からの声があるからだと語ります。

「だから私たちは卸だけではなく、公元の取り組みに共感し使ってくださる方や、食べる人への直販を主体にしたい」

冨山さんはそう決心しています。

作っている人の顔が見えることは、消費者にとってもっとも安心できること。それは、生産者にとっても同じです。

食べてくれた消費者の実感をつかみたい。そしてより良い鶏を届けたいー。

ぜひ、公元の天草大王を食し、リアクションを生産者に届けてみてください。

それは、あなたと生産者の感動の橋渡しになるに違いありません。

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